ポーリング・ドリッピング・パドリングの描き方
どのような表現か
ポーリング(Pouring:注ぎ込む)・ドリッピング(Dripping:滴らせる)・パドリング(puddling:水溜まりを作る)とは、それぞれ絵の具を垂らす・流し込む技法です。
三技法とも似た性質を持った表現で、アメリカの画家ジャクソン・ポロックの作品などでも有名な技法です。
通常の筆で描く表現と異なり絵の具の粘度、量、落とす速度など要素のコントロールが難しいかもしれません。しかしアクリル絵の具の利点である絵の具の乾きの早さ、自在に操れる粘度を生かせる表現です。
絵の具の種類
絵の具を溜めたり重ねたりしているうちに厚みが増しますので基本的にはアクリルガッシュではなくアクリル絵の具を推奨します。(→「アクリルガッシュとアクリル絵の具の違い」 )
アクリル絵の具は水やメディウムで溶きます。最初から低粘度のアクリル絵の具を使うと絵の具を溶かないもしくは少量の水、メディウムを加えるだけでも表現が可能になります。
(ゴールデンフルイド(GOLDEN FLUID:ゴールデン社)、アクリリック カラー[フルイド](ホルベイン)など)
アクリルガッシュでポーリングやドリッピングを行いたい場合はターナー色彩株式会社から液状タイプのアクリルガッシュが出ています。
ポーリング/ドリッピング/パドリングのやり方
「こうしなければならない」といった原則ではありませんが、大体の作業の傾向を紹介します。
基本は一色を置いた後にその上や横から別の絵の具を垂らすという行為を繰り返します
水で薄く溶いた絵の具は水彩のようにぼけ、ある程度粘度を持たせて溶くとはっきりとした境界が現れます。
絵具皿では絵の具が足りないので瓶やプラスチック製のコップ、ディスペンサーに溶くことが多いです。(ディスペンサーとは口が円錐形の形になっているボトルです。ソースボトル、スクイズボトル、オイルボトルなどの名称があります。)ディスペンサーは片手だけで絵の具を出すことができ量の調節もしやすいので支持体を動かしながら垂らすのに便利です。
垂らした軌跡や流れを出すために描きたい部分からはみ出るくらいに絵の具を垂らしたほうが上手くいきます。
様々な表現方法
絵の具を垂らすという行為を繰り返す技法ですが、方法を変えることで表現の幅が無限に広がります。
同じ方法でも、絵の具や道具や支持体、角度などを変えていくと様々な表現が可能になります。
メディウムを使う
技法自体は使わなくても可能ですが、ポーリングメディウム(リキテックス)を絵の具に混ぜると、異なる二色が混ざらずマーブル模様になります。
メディウム自体の色は乾燥前は乳白色、乾燥後はほぼ透明になります。(若干曇ることがあります。)混ぜる比率によって独特のとろみがつき、絵の具の透け具合も変化します。
絵の具はインク状や低粘度のアクリル絵具を使う人が多く、リキテックスはリキテックスソフトボディを推奨しています。硬い絵の具の場合、混ぜ合わせる際に絵の具が粒状のダマになることがあり、それを潰さなくてはいけません。
注意点としては、水を加えると強度が下がることと、発色の強い絵の具は想定よりも色が付くことがあるため、少しずつ絵の具を混ぜたほうが良いことです。また、溜まった絵の具が厚いほど乾燥に時間がかかり、乾燥には一日~二日ほどもたせることが推奨されています。
支持体を傾ける
ポーリングやパドリングを施した後に支持体(キャンバスなど)を傾けることで、重ねた絵の具を動かす方法です。
絵の具を滲ませることで、さらに複雑に模様を動かすことができます。ポーリングメディウムなどを使っていると絵の具が層になって見え独特の奥行きが見えます。
へらやペインティングナイフ、棒などを使って模様を作る
パドリングやポーリングを施して、ある程度絵の具が溜まった後、へらなどで線を引くとそこに軌跡が残り、より複雑なマーブル模様を作ることができます。
支持体の縁から絵の具を垂らす。
キャンパスなどの支持体を立て、そのふちから絵の具を垂らすことで、垂直方向に流れる模様ができます。
板に張られていない状態の紙や布の縁から絵の具を垂らすと、なだらかな模様や不規則な線を描けます。
偶然できた模様を生かす。
垂らしたり、支持体を傾けて流れを付けたり、へらなどで模様を作っていくと、ふとその模様が別のものに見えることがあります。
こういった技法の絵画を見たことがある人の中には、前衛的、抽象的過ぎて使いこなせなさそうという感想を持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、抽象的な絵だけで使う技法ではありません。
アクリル絵の具は重ね塗りできるのが利点です。模様に合わせて上から描き足していき、絵を作ってしまう手もあります。
マスキングを駆使して範囲内のみ技法を施す
あらかじめシートやテープでマスクし、その範囲のみに技法を施すことで、部分的なテクスチャや模様として使うことができます。
例えば絵全体で使わなくとも空の絵の雲部分にだけ、森の絵の枝にだけ技法を施すなど、アクセントとして生かすこともできます。マスキングの方法については「マスキングテープ・シート・インク 」で詳しく説明しています。
ドリッピングに粘性の高いメディウムを使う
粘性の高いメディウムを使うことで、絵の具そのままでは書けないような長さ、細さのラインの模様を滴らせることが出来ます。
ストリングジェルメディウム(リキテックス)やクリアタルゲル(CLEAR TAR GEL:ゴールデン社)などのメディウムが代表的です。
注意点
ポーリング、ドリッピング、パドリングを行う際にはいくつか注意点があります。
事前に準備しておかないと、せっかくの作品が台無しになってしまうため、十分注意してから行いましょう。
必ず汚れても良い環境を作る。
通常の塗り方でも絵の具は思わぬところに飛び散ったり付着したりしますが、ポーリング、ドリッピング、パドリングは特に汚れ、飛び散ります。
絵の具が飛び散ったり滴り落ちても大丈夫なように、支持体が小さい場合は汚れてもいいボックスの中でやることや、大きい場合はシートで作業場周辺を被うことをおすすめします。また、手や服にも大量に付着するため、つなぎやグローブをして作業したほうが安全です。
乾かしている間は動かさない
乾かしている間に動かすと絵の具の模様が動いてしまう危険性があります。
また、動かして埃が舞うと溜まった絵具に付着する可能性があります。透明度が高い部分などは付着した埃が目立ちますので、乾燥中は埃などが付かないように注意します。
支持体の側面や縁を設置させないようにする
キャンバスやパネルの場合は下に数点支えを配置し、地面やシートに直接接しないようにします。
こうすることで側面から垂れた絵の具が支持体とともに接地面にくっついてしまう事故を防ぎます。